「それでも町は廻っている」の連載終了後、石黒正数さんが講談社アフタヌーン誌で連載開始した「天国大魔境」。待望の第一巻が刊行されました。
文明が崩壊したあとの不気味な世界を描く、ポストアポカリプスもの。これまでの石黒マンガとは一線を画すサスペンス感があります。
第一話の試し読みは↑こちらで。
概要
「天国大魔境」では、2つの世界が同時に描かれます。
1つは、外界から隔離された謎の施設。その中で、外の世界を知らずに生きるミミヒメ・トキオら子どもたち。彼らには何やら不思議な能力が…?
そしてもう1つは、文明が滅びて15年後の世界。その中をさまようのは、キルコとマル。キルコはマルのボディーガードとして、彼を「天国」へ送り届けるのがその役目。しかし「天国」が何か、ということはわからない状況。
そんな2つの世界、文明崩壊後の東京で「天国」を探すキルコとマルの二人をメインに、時折、施設の中で生きるミミヒメ・トキオらの様子が描かれる、といった構成です。
感想
石黒正数さんは、どちらかと言えば物語に笑いを練り込んだコミカルな作風。その雰囲気はそのままにこの「天国大魔境」、全編にヒンヤリと底冷えするような空気が漂っています。
ほんわかした絵柄で楽しく読めるんだけど、足元に常に薄ら寒い感じがまとわりつくような。
それはおそらく、全てを明かさずに進行する物語形式、だから。
キルコのことを「おねーちゃん」と慕うマル。しかし二人は姉弟ではなく、ボディーガードと依頼人、という関係。
そのことは最初から明かされているわけではなく、物語を読み進むにつれて、二人の会話などからわかる、という仕組み。
世界には正体不明の化物「人食い」が存在し、そしてマルはそれを倒す力を「なぜか」持っている。またキルコ自身にも、何か秘密があるよう。
この「二人とともに世界を歩くうちに、次第にいろいろなものが見えてくる」感覚がおもしろい。見えない部分に対する想像が、物語への没頭感を高めます。
とともに、各所で提示されたヒントを拾い集め、頭の中でこの先にどんなことが起こるのか、を想像する楽しさも。でも石黒正数作品だから、きっとその想像をあっさりとひっくり返すような仕掛けがあるんだろうな。
一方、施設の中にいるトキオたちも、常人とは異なる不思議な能力・生態を持つ存在。マルはある人物を探しているのですが、施設の中の一人がそれなのかも?
1巻ということで、まだまだ2つの世界の接点は見えません。同一時間軸に存在しているのかも不明。ネタバレは避けますが、1巻は謎が謎を呼ぶ展開。おもしろいけど、続きが気になってモヤモヤ…!
しかしいずれ、これらのパーツが、物語の進行とともにカッチリと噛み合わさっていくのだな、と想像すると、背筋がブルリとするような興奮を覚えます。
まとめ
というわけで「天国大魔境」。物語の導入部的な1巻、この先に待っている冒険を想像すると、ワクワクが止まりません。
そしてその期待は、石黒正数というマンガ家さんが、とても緻密な物語を紡ぐ作家であることを知っているから。
氏の過去作である「それ町」や「外天楼」を読んだ方はわかるとと思いますが、石黒正数さんは謎の散りばめ方や伏線回収が、ホントにウマイ。読んでて「グヌヌ…」と何度思ったことか。
この「天国大魔境」は物語の全体像が見えない中で、コマやセリフに散りばめられたパーツを探し、読み手がそれらについて重要なのか、何かの伏線なのか、と想像しながら読むのが、めちゃくちゃ楽しい。
何度もじっくり読み返して、いろいろと想像して、2巻でまた答え合わせをしたいところ。でも外しまくって0点になりそうw
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